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混沌の時代ありき。
光求め ミカド戦う。
ミカドを支える腕 常に影にあり。
友であり 剣士であり 巫子であるアルギス。
神剣「伊耶那岐」を持ち 雷の如く戦えり。
しかし 志半ばにて ミカド斃る。
死にひんしてミカド曰く
「我 再び この地に降臨せり」
友、幾千里を渡り 遠国にて彼の人を見い出しぬ。
再び共に剣をとり ついに混沌より光を取り戻す。
ミカド告げるに
「我 永久にこの大地に留まり 民を納めん」
ここに帝王世紀 始まる。
戦場。決着はついている。引き上げてゆく兵士。家も燃えている。
聖武将の陣。数人の男たちが円卓にて会合をしている。
○「たった3日で陥落か。あっけないな」
●「もとより判っていたことではないか。たかが辺境の領主のこぜりあいに、聖武将が出てはな」
☆「近頃のミカドは、少し過敏すぎるのではないか」
○「たしかに。必要のない戦が多すぎます」
●「只でさえ気の小さなお方だからな。近頃は宰相が病に倒れ、後継者も決められないでおる。不安で疑心暗鬼
になるのも道理」
○「あんな老人では仕方がない。次の宰相には、ぜひ健康で力の強い者がなってほしいものですね」
☆「伊耶那岐を使えるほどにか」
○「まさか。巫子が戦いをするなど…伝説のアルギスでもなければできはしません」
☆「戦いばかりでは世も乱れる。属国にとっては迷惑なことだ」
●「まあ、俺にとってはこの百鬼丸に輝きを増させる良い機会だ。前のミカドの代は、戦のないつまらぬ世代だ
ったからな」
○「兄上、民にとっては平和が一番なのですよ」
●「良く言うわ、サランドル。お前も戦いがあれば狂雪華の封印を解いて戴けると喜んでいたではないか」
○「それとは、違います」
●「いいや、違わん」
兄弟でもめているところへ、レギオンが声を掛ける。
☆「そろそろ餓鬼連が野に出る頃だ。うかつな者がおらぬか、見にいった方がいいぞ、タナトス」
●「おお、そうだな。サランドル、お前も行け」
立ち上がるレギオン。
外、風に乗って何かが聞こえてくる。耳を澄ませるレギオン。
「どうしました?」
「声がしなかったか」
「いいえ?」
「…見てくる」
「レギオン、このあたりにはもう生きている者などいません。それにもうすぐ時が闇に移って餓鬼連が死者を
あさりにきますよ」
「それまでには帰る」
立ち去るレギオン。見送るサランドル。
ごろごろと転がる死体。腕や足や首が半ば埋まっている。レギオンが歩いてくる。遠くの方に動くものを見つけて近づいてゆく。
まだ子供のようなものが、重なり合った死者の手を引いて、大地に寝かせている。涙を流しながら、小さな声で話しかけている。
「痛かったろうね、苦しかったろうね。かわいそうにね」
「…こんなところに、何者だ」
近づいてゆくレギオン。足音がして、セーレンが振り向く。二人の視線が合う。
いぶかしげな表情のレギオンに反して、セーレンの顔が輝いて、嬉しそうに微笑む。
「良かった!あなた、生きていて下さったのですね」
弾かれたように駆け出してきて、両腕でレギオンに飛びついてゆき、両手をとってしっかりとにぎりしめる。
「どこもケガはありませんか?痛いところはないですか?」
心配するセーレンに、意表を突かれたレギオンは驚くばかり。
「ここは死者ばかりで、生きている人は誰もいませんでした。あなただけでも生きていて、本当によかった
「お前は…何者だ?」
「私は、帝都の巫子のセーレンと申します」
「帝都の戦神宮に仕える巫子が、何故こんなところにいるのだ」
「さあ…私にもそれは…」
ふりかえるセーレン。遠くに崩れかけた古い神殿がそびえている。
「ミカドの司る多くの門の一つに入りましたら、ここにいました。古の道が開いたのかもしれません」
「誰かがお前をここまで飛ばしたのか」
少し考えるセーレン。
「私は、ずっと戦神宮の中で暮らしていましたので、一度外の世界を見たいと思っていました。ミカドが、
それをかなえてくださったかと思います」
「…そうか。だが、お前のような者が来るようなところではない。神殿より来たのならば、戻れぬこともな
かろう」
「いいえ」
きっぱりと断るセーレン。
「この方たちをとむらってあげるまで、帰りたくありません」
少し歩いて、膝をつくセーレン。
「あなたこそ早く家へお帰り下さい。このままここにいると、せっかく生き延びたあなたも、命を失うこと
になるかもしれません」
「…聖武将の命を心配する者など、お前がはじめてだ」
「そんな…どなたの命も同じです」
セーレン、レギオンを仰ぎ見て。
「戦神宮では、外では民人が暮らしており、親子や兄弟や家族と呼ばれる肉親が幸福に生活を営んでいると
教えられてきました。なのに、このような死に満ちた場所があるとは。あまりにもひどい…」
「当り前だ。ここは戦場、お前のような巫子が見るべきものではない」
「でも、それでも戦は存在するではありませんか。なぜ、神官様は教えて下さらなかったのでしょう」おとう
「巫子は、全てを知る必要はないからだ」
レギオンはセーレンの腕を取って立たせる。
「戻りたくなくても、戻ってもらわなくては困る。我々聖武将は、お前たち帝都の者を守るために戦を指定
るのだからな。こんなところに置き去りにして、餓鬼連に食われる訳にはゆかん」
セーレンをひきずるようにして歩いてゆくレギオン。
「いやです。帰りたくなんてありません。私はここに残って、あの人たちのために祈りを捧げたいのです」
「祈りなら、神宮でやるのだな。ミカドのためにも祈って、少しでもあの方の気持ちを和らげてやるがいい
そうすれば、こんな無駄な殺戮も少しは減るだろう」
「ミカドが、この戦を命じているのですか?」
「他に誰が、聖武将に命令することができる?」
ハッとなり、うなだれるセーレン。
「ミカドは、戦が好きでいらっしゃるのでしょうか…」
神殿の前に着いた二人、レギオンがセーレンを追い立てるようにしてゆく。
「手間をかけさせるな。我々はまだ、戦わねばならん」
「まだ、戦いを続けるのですか」
「ミカドの気がすむまでは、聖武将といえど兵を引けん」
「あなたは、とても強そうな方です。あなたがミカドにお願いして、戦をやめさせる訳にはいきませんか」
「それは、宰相の役目だ。聖武将は戦うための者だからな」
「あの方は、いったい何をそんなに怯えていらっしゃるのでしょう。戦神宮はあれほどに静かであるのに」
「死だ。ミカドは死を恐れるがゆえに死をもたらす。我々を使って」
「ミカドの心を静めるためには、どうしたら良いのでしょうか…」
うつむいたセーレンの顔をみつめるレギオン。ふと視線を移し、不知火丸を腕から伸ばす。
「どうしました?」
セーレンが驚いてたずねると、回りに鬼火がさまよっているのに気が付いて身を固くする。
「餓鬼連だ。奴等が出る前にお前を返すつもりだったが、遅かったようだ」
まとわりついてくる鬼火から腕が出て、頭が出て、足が出て、人の形になる。
───おまえのきれいな瞳おくれ────
───おまえのきれいな歯おくれ────
───おまえのきれいな皮おくれ────
細い指でつかみかかってくる。服を破かれて悲鳴を上げるセーレン。レギオン、セーレンにとりついた餓鬼を素手でひきむしって助ける。
「手を引け、餓鬼ども。お前たちの手にかかるような者ではないぞ」
「これは、人ではないのですか?」
「死人あさりの餓鬼連だ。打ち捨てられた死者から、無事な部分をさらってゆく。死者にしか要のない餓鬼
連は、まぎれこんだ生者は殺してから奪う。引いてゆかれるなよ」
「はい」
レギオン、不知火丸を一閃させる。激しい突風と切り裂かれる餓鬼連の渦。しかし、ダメージを受けたのは、生身のセーレンもであった。床に倒れたセーレンに、群がる餓鬼連。
レギオン、剣をしまってセーレンのそばに駆けつける。
「巫子が生身であることを失念していた。立てるか?」
消えたはずの餓鬼連が再び現れ、次々に襲いかかってくる。歯と爪とを使って、少しでも傷付けようとする。
レギオン、素手で防戦一方。しかし、セーレンをかばっている上に武器が使えないため、不利な状況に追いやられる。
かすり傷だが、レギオンの両腕が傷で一杯になっている。
「剣を使って下さい!このままではあなたが危ない!」
「そうはゆかん。不知火丸をこれ以上使えば、お前は影すらもなくなるぞ」
「でも、私のためにあなたが傷つく…」
「では、祈ってくれ。お前が巫子なら、少しは奴らの魂も静まるかもしれん。伝説の宰相は、祈りにて怪し
を静め、剣にてミカドを守ったと言うぞ」
「…それで良いのなら、祈りましょう」
立ち上がり、手を組み、目をつぶるセーレン。
祝福といたわりと慈しみの言葉を呟き、セーレンは両手を開く。
レギオンに襲いかかっていた餓鬼連が、攻撃を止めて次々にセーレンを振り向く。そして引き寄せられるようにセーレンに向かっていった。レギオン、思わず不知火丸を出して身構えるが、様子が異なるのに気付く。
ありとあらゆる方向からやってきた餓鬼連の集団が、一息にセーレンの腕の中へと吸い込まれ、背後へと抜けてゆく。セーレンの背中を通り過ぎた餓鬼連は、次々に白く薄くなり、消えてゆくのだった。
一つ残らず消え失せてしまった後には、レギオンとセーレンだけが残った。
「驚いたな…たいした能力だ」ちから
「これで、良かったのですか?。あのものたちは、これで安らぎを取り戻すことができたのでしょうか」
「十分だと思う」
「そうですか」
にっこり笑うセーレン。
戦神宮。女官や巫子がいそがしげに立ち働いている。その中を正装した聖武将が歩いてくる。
「たかが宰相候補が決まったからといって、わざわざ戦場から呼び戻されるとはな。サランドル、今度の宰
相になる奴はそれほどすごい者なのか?」
「たいした能力者だという噂です。これまでにないほど式典を華やかにするのは、そのためでしょう」
「やれやれ。ハッタリもいいかげんにしてほしいな」
タナトスとサランドルが話しながら歩いてくる。一緒にレギオンもいる。
「しょせん巫子は巫子よ。祈るばかりで何もせぬ。なあレギオン」
振り向いたタナトスに、レギオンが何か言おうとしたとき、塔の上から呼ぶ声がした。
「レギオン、タナトス、サランドル。久しぶりね」
「おお、白の女神ヴィバーチェ。相変わらず美しい!」
タナトスが駆け出し、サランドルもその後を追う。
一人残されたレギオンは、ゆっくりと中庭をよこぎって歩いてゆく。
「レギオンと、おっしゃるのですか」
生け垣の影から声をかけられ、レギオンは立ち止まった。
「あの時は夢中で、お名前を伺うことも、忘れていました」
花の中からセーレンが現れた。宰相を引き継ぐための正装で華やかに美しく着飾らされ、手には布に乗せられたひとふりの剣を持っている。
「その衣装は…宰相のもの。次の宰相になるという巫子とは、あなたか」
「はい。祭司長様に、伊耶那岐を譲っていただける事になりました」
セーレンは伊耶那岐をレギオンに見せ、嬉しそうに笑う。
「レギオンにお願いしたいことがあります。私に剣を教えてくださいませんか」
「剣を?」
「私、戦は嫌いです。たくさんの人々の悲しみが、あの死の大地には満ちていました。ミカドに戦を思い留
まっていただくにはどうしたらよいか、あれからずっと考えていたのです」
きゅっとセーレンは表情を引き締め、決意を見せる。
「宰相アルギスのようにはゆきませんが、私にできることなら何でもしたいのです。私が祈りだけではなく
剣も使えてもっともっと強くなれば、ミカドも恐れや不安を感じることもなくなり、戦が減ると思うのです」
セーレンは捧げ持っていた伊耶那岐を、レギオンに差し出す。
「いつか、この伊耶那岐で貴方も守ってさしあげたい」
セーレンは夢見るような表情で言う。
「誰よりも、強くなるんです。必ず」
伊耶那岐を手に取り、レギオンは呟く。
「…人を殺せぬ剣でも、心は斬れるかもしれんな…」
少し笑って承諾する素振りを見せるレギオン。喜びのセーレン。