メタルヒール

就職戦線の火蓋が切られた、国際警備保証同盟付属学校(UGSAS)は、新人勧誘騒ぎの真っ最中だった。
UGSASは、知力体力時の運、様々に恵まれた青少年を育成し、世界の正義と秩序を守り、犯罪組織と日夜戦い続けるための人材を、確保するための学校である。
しかし、世の中は常に人出不足。甘い言葉と高い給料、楽な環境の罠でもって、優秀な人材を狙う企業は、掃いて捨てるほどある。
一応建前は自由就職となっているが、学校側としては優秀な人材を他の企業に逃がしたくはない。あの手この手とキャンペーンを繰り出し、学校側と他企業との就職戦争は、毎年の恒例行事だった。
さて、主人公の金城 鋼(きんじょう はがね)も、多分に漏れず待遇の良い就職口を求めていたのだが…彼の場合は、多少外の生徒とは事情が異なっていた。
と言うのも、彼はまだ16才。本当ならUGSASの1年生にすぎないのに、ステップにつぐステップを繰り返し、本来なら5+4+4+4年間のプログラムを全て消化してしまった、金の卵だからである。
ところが彼には国際警備保障同盟に入る気はもうとうない。
生まれた時から、ここに居たというだけで、自分の意志など全く関わっていなかった自分の人生に、鋼はさっさと見切りをつけて、早く外に出たいのである。
鋼は実に器用な少年で、テニス・漫画・歌・小説・その他諸々、プロ並みの腕前を誇っている。ただ続かない。すぐに飽きて、他のものに興味を移してしまう悪い癖があった。
とりあえず今は、アイドルなんかいいなーと、訳も分からず芸能会入りを目指しているのだった。
彼に親はいない。いや、いるにはいるのだが、会った事がない。
父親は国際警備保証同盟の、ばりばりのエリート社員だったが、仕事中に事故で亡くなったという。母親はこの学校の校長である、学生時代の親友に鋼を預けたまま、遥かな場所の任地に旅立ってしまった。鋼はおかげで、母親の顔というものを、彼女が10代の美少女だった頃の写真でしか、見た事がない。
とにかく鋼は国際警備保証同盟にだけは、就職したくなかった。
他のどんな職業についても、ここだけは、絶対に嫌なんだと心に決めているのだった。
そんな鋼に心を痛める、UGSASの校長、または育ての親の鳥澤 未宝(とりざわ みほ)校長であった。
かのじょは鋼を絶対に、死んでも国際警備保証同盟に入ってもらいたい。それが彼の父親である金城 黄金(きんじょう こがね)と、母親の金城 茜(きんじょう あかね)の意思でもある。
それにこんな貴重な人材を、他の奴等にもっていかれてたまるものか。10年、いや100年に一度出るか出ないかの、逸材だと彼女は信じていた。
というわけで。
世捨て人たちが静かな余生を送る、清廉貞潔修道会の里に、一通の手紙が送られたのだった。

騒がしさがつのるUGSASに、一人の男がやってくる。
妙な仕立ての服を着て、頭の上には髪の毛の代わりに、長い布をぐるぐると巻いて、奇妙である。
宗教関係に詳しい生徒が、彼の正体をたちまち見破った。清廉貞潔修道会。決して外に出ることはないと言われる、謎の団体である。
彼はアルビノ・エスクワイヤと名乗り、国際警備保証同盟に参加して、パートナーとして共に戦ってはくれないかと言う。
スカウトだ。
彼は以前国際警備保障同盟UGSAに所属し、活躍していたが、ある事件でパートナーであり、恋人だった男性を失い、傷心の余り出家したという。しかし、君になら命を捧げてもいい、何があってもついてゆくと言うアルに、鋼は驚いて逃げ回る。当り前だ。
人工島の上に作られたUGSASは、幼稚園児から大学生までを預かる巨大な学園都市である。そこを舞台に、しばしのおっかけっこがあったが、地理に勝る鋼が勝利を納め、アルが軽傷を負った所で、ひとまず追跡騒動は一段落する。
しかし、その最中に鋼が狙撃されている事が発覚した。
気付いたのは鋼の友人たち。イダ・バグース・アノムと陳依敏だったが、証明する鍵がない。
学校の中に、反乱分子の影があるという噂は昔からあったのだが、まさか本当だったとはと、ざわざわしている友人に比べ、鋼は血が騒ぐのを感じていた。どうも面白くなってきたような気がする。
鋼は気付いていなかったが、元々鋼はUGSの仕事に向いている性格なのだった。適職なのだ。どんなテストをしてみても、絶対にこの仕事しかない!と言われている。あまりに周囲に言われるので、反抗していただけだ。
そして、軽傷を負ってベッドについているアルから、鋼は衝撃の事実を聞かされる。
アルビノ・エスクワイアのパートナーとは、鋼の父親の黄金だったという。うすうすそうではないかと思っていたが、口で言われるとショックもひとしお。
アルは死んだ黄金に操を立て、決して他の人間に心を奪われる事のないようにと、戒律の厳しいことで知られる、清廉貞潔修道会に身を投じたのだった。しゃばにいたら、自分を押さえる自信がないと言うアルは、正直な奴である。
…つまり鋼は人工受精児で、子供が欲しい二人の男女の間で交わされた契約により、生まれた子供らしい。傷つく鋼。
そんな鋼に魔の手が忍び寄る。
最初はたわいないいたずらだと思っていた。妙な勧誘の後で路地に引き込まれそうになったり、犬が襲い掛かってきたり、道が途中で陥没したり、上空からクレーンが倒れてきたり、橋桁が転がったり…さすがにここまで来ると、鋼も変だと思い始める。
運がいいことでは他に類を見ない、UGSASの生徒たちだからこそ、大した事故ではないとみなされてはいるが、良く考えたら恐い。
鋼は自分をおとりにして、付け狙う影をおびきだすことにした。
さて、彼を狙っていたのは、NANAと言う組織である。
彼等はUGSASに秘密裏に息のかかった者を送り込み、才能のありそうな学生を金で誘惑したり、事故に見せかけて再起不能にするなど、地道な妨害工作を行っていたのだった。罠に掛けて学校を退学させ、復讐を目的に組織に抱え込むなど、お手の物である。
しかし彼等は巧妙に裏に隠れて、姿を表すことはなかったのだ。
鋼は友人たちに協力を仰ぎ、UGSASで習い覚えた技術を駆使して、自分に接近した人間をチェックしていた。一人一人、消去法で落としてゆくうちに、やっとぼんやりと姿が浮かんできたのだが…。
それはもう数十年の間、UGSASで講師を勤めている男(七瀬 ヒロ)だった。世話好きで、生徒の人望も厚い。そして鋼の父親である、黄金とも既知の仲だったという。ジャックたちも、まさかそんなことはないと言うのだった。
煮え切らない結論に、鋼は自分から彼に接近してみる。最初は大した反応はなかったのだが、鋼が父親の話を向けると態度が少し変わった。悲しそうに死んだ友人の話を聞かせるヒロに、鋼は警戒を解いてしまう。
入院していたアルは、友人たちから鋼が事件の解決のために頑張っていると聞かされ、感涙していたのだが、鋼がたった一人で容疑者に関わっていると知ったとたん、ベッドから跳ね起きた。怪我などしていないと言うパワーで、病院を脱出。鋼を捜す。
その時すでに鋼は、NANAのただ中にいたのである。
しかしアルは昔とったきねづかである。UGSASの集中管理室に押しかけると、エネルギー消費率と、生体波動の変換率をはじきだし、鋼のデータを元に、彼が現在いる場所を突き止める。
鋼は講師のヒロと、その仲間に脅したりすかしたり、NANAとの繋がりを容認するかそれとも、ここで人間としての機能を失うかの選択を迫られていた。残酷な拷問方法の講義をかまされて、辟易する鋼だ。
そして、鋼の父親を事故死させたのは、講師であり、友人だったこの男なのだという事が、ひょんな事で発覚する。
いくら会ったこともない父親とはいえ、自分を生み出した人物である。鋼は怒る。交渉は決裂とばかりに、鋼も事故にあってもらう…と言う所に、アルが中古の小型シャトルで突っ込んできた。
全ては明るみに出てしまい、UGSASにはびこっていたNANAのネットは、完全につぶす事ができた。いささかあらっぽい事件はあったが、とりあえず鋼もUGSASの卒業証書をもらう事ができた。
父親の仇を取った、と言う形になった鋼だったが、それよりも、事件解決の喜びは快感だったようだ。他の職業につきたいという欲望が、いつのまにか薄らいで、気にならなくなっている。アルの面倒を自分が見てやらないと、こいつは何をするか判らないぞ、という義務感のようなものも芽生えてきていた。
育ての親である校長に相談すると、やはりUGSAに所属して欲しいとの答えである。ただ、どうしても合わないというのであれば、部署を移動したり、別系統へ転職することだってできるのよ、と校長はソフトに鋼を勧誘する。
それが本当かどうかは謎だったが、鋼はその気になったようだ。
アルが嬉しそうに中古シャトルのそばで、鋼を待っている。
ついに鋼は、はめられてしまったのだった。