カミング・アフター後半/脚本
ゴグ&マゴグ
天界生まれの彼 キュリクス
人界生まれの彼女
A マイユ
B アサギ
奈落の護り手 アポクリファ
(今年の) 幸福のカップ プラクナ
と言うわけで。
一気に奈落の地盤に着いた彼等であった。
奈落という言葉の響きに比べて、ここは静かな聖地のようである。人の意識の届かないありのままの姿を留めている。全体的に緑が濃く、いたるところに水が湧いて流れを作っている。
マイユ「アサギー」
マゴグ「おーい、隠れなくっていいんだぞ」
二人が呼びかけている後ろから、ゴグがはなはだ疑問だと言う顔で、ついてくる。
ゴグ 「呼ばれたからって、…自分から出て
くるとは、思えないのだけれど…」
と、彼等をジッと観察している一対の目。いささか不審そうで、スキがない。だがゴグマゴグたちは全く気が付いていない。
そのあたりを勝手に歩き回っている。
その辺で拾った気の枝か何かで、薮をつつくマゴグ。
マゴグ「おーい」
ゴグ 「いるか、そんな所にっ」
と、行った途端、薮からざっと勢い良く立ち上がる影。
マゴグ「ひゃっ」
ゴグ 「ほ、ほんとにいた…?」
マイユ「アサギ?」
が、立ち上がったのは女性ではない。
アポクリファ「何だよ、客の多い日だな。お
まけに今度は一度に3人か?
しょーがねーな」
小柄な身体の男性で、黒髪の短髪である。動きやすそうな服をまとっている。重ね着した上着と、背中には膝頭程度の長さのマントを付けて、猟人の姿にも似ている。手には先が少し太くなった、杖とも棒ともつかない物を持ち、やはり腰にはイリスと同じような鍵を下げている。
アポ 「俺の手間が増えるじゃねーか。静か
に暮らさせてくれよなー」
ぶつぶつ言いながら、杖をマゴグ達に向ける。
アポ 「んじゃ、ちょいと痺れるけど、ちゃんと上に戻してやっから、俺を恨むなよ。ここに来るなら、ちゃんと許
可取ってきな」
全員 「え、ええ?」
不意の宣告に、全員とまどう。
アポ 「勝手に来るとこじゃねーんだから」
マゴグ「まっ、待った!待ってくれよっ」
ゴグ 「な、奈落の護り手、アポクリファ…か?」
アポ 「おうよ、良く知ってるな」
にっと笑うアポクリファ。
ゴグ 「私達は、ちゃんと許可をもらっていますよ!ほらっ、ほらほら」
あわててゴグは通行証の星のかけらを、懐から引っ張り出してアポクリファの前に掲げて見せる。
アポ「…なんだ…降りるって知らせがあったゴグとマゴグって、あんたたちの事なのか…けど」
アポはゴグの通行証を見て、拍子抜けさせられたようだ。杖を降ろす。
アポ「一人、多いぜ」
マイユに視線が集まった。
森の中をさくさく歩く4人組。戦闘はアポクリファとマイユである。
アポ 「たまーに、来るんだよな。忘却の花が欲しいって奴。けど、勝手に取られちゃ困るし…大体、都合のいい記憶だけなくなるって訳でもないのにさー」
マイユ「もしかして、全部忘れちゃうの?」
アポ 「あー、忘れる忘れる。自分が誰かもどうしてここに居るのかも、ここがどこかも、何もかもさ。だから忘却の花なんだ」
と、話しているうちに森が割れて、その向こうに澄んだ水を湛える池が現れた。周囲は1Kmトラックの円周を保っていて、周囲を森で囲まれている。上空から見れば、ここだけぽっかりと森が割れて、池の水か見えるのだろう。
そのほとりに煉瓦作りの頑丈そうな、2階建ての赤い屋根の家が立っている。家から池には裏側から桟橋が伸びていて、端には2,3人用の小舟が停泊していた。
アポ 「あれが俺んちだよ。付いてきな、今日最初の客に合わせてやっから」
マイユ「アサギなの?」
アポ 「たぶんな、けどここに連れてきてから、ひとっことも喋らねぇんだ。まいったぜ、名前も判りゃしねぇ」
がしがしと頭をひっかいて、アポクリファはドアを開けようとした。
と、その手が止まる。
アポ 「…しまった…」
マゴグ「どうした?」
アポ 「…鍵、閉め忘れた…」
ゴグ 「何ー!」
マゴグ「…奈落の護り手アポクリファは、天界一の大マヌケってのは、本当だったんだなー!」
弁解するように、アポクリファはあとずさる。
アポ 「け、けどその呼び名は、種子箱を下界にばらまいた門番二人組が、引き取ってくれたはずだぜ」
マゴグ「丁重にお返しするぜっ!」
もめている3人の脇で、マイユが声を上げる。
マイユ「あ…あれ、アサギだっ!」
マイユが指差しているのは、池の向こう岸である。
マイユ「アサギー!」
はっと気が付くアサギ、あわてて森の中に隠れようとする。
マイユ「アサギっ!」
マイユは池の上を横断し、アサギを取り押さえる…と、言うより、アサギの上におっこちた。
マイユ「バカ、ばかばかばかっ」
草の上に座り込んだまま、マイユはアサギをぽかぽか殴る。
マイユ「一人で決めちゃわないでよぉ。一人で行っちゃわないでよ。すごくすごく心配したんだからっ」
アサギ「だって、だって…私ったらやっぱりキュリクスの事…あきらめられないんだもん」
マイユ「…え?」
マイユは驚いてアサギを見返す。
回想
キュリクスがマイユとアサギと一緒に飛んでいる。先にマイユの手を取って、地面に降ろしてやりながら言う。
キュリクス「結婚できたらいいな…」
マイユ 「…え?」
キュリクス「下界から戻ってきた人と、結婚するのが僕の夢だったんだ。元気が良くて、話をするのが楽しくて」
そう言いながら、今度はアサギに手を伸ばす。
キュリクス「一緒になれたら、どんなにいいだろうね」
アサギ「キュリクスは、そのうち私達のどちらかを選んで、結婚するつもり…でも、私たちのどちらが選ばれても、片方は一人になっちゃう…もし残るのがマイユだったら、やなの。私ったら、キュリクスも、アサギの事も大好きなの。アサギが寂しいままなんて、我慢できないよぉ」
マイユ「いいの?それでいいの?アサギはキュリクスの事、譲っちゃってもいいの?」
アサギ「…やだ!やだよ!」
アサギは泣きそうになる。
アサギ「全然良くないよ。それが一番いいって思ってるのに、アサギが幸せになるんなら平気だって思ってるのに…やっぱりだめなの、あきらめられないの!」
はっと周囲に気付く2人。
向こう岸にいたゴグマゴク・アポクリファが彼女たちを囲んでいた。
アポ 「で、忘れてしまうに限るってんで、忘却の花を取りにきたのか。下界育ちってぇのは、行動がパワフルだねぇ」
アサギ「だって…3人がみんな幸せにはなれないの…ダメなの」
マゴグ「なんで?…何がだめなんだ?問題なんかないぜ、だいたい…」
マゴクの発言を、不意にゴグが口を押さえて途切れさせる。
ゴグ 「彼は君達のどちらかを、はっきり選んだ訳じゃないんだろ」
顔を見合わせるマイユとアサギ。
アサギ「…言わなかったけど…でも、選ばなきゃいけないでしょ。だから私、マイユに譲ろうと思って…」
マイユ「やぁよ、私だってアサギに譲る!」
ゴグは、まぁまぁとジェスチャーをして見せる。
ゴグ 「要するに君たちは、空の眷族の結婚を、下界の人間の結婚と、全く同じように考えているんだね」
マゴグ「あ、なーる」
マゴグはぽんと手を打った。
マゴグ「そりゃしょーがねーや。結婚式でも見ない事にはなぁ」
きょとんとして、二人を見ているマイユとアサギ。
ゴグ 「アポクリファ、私達を最上層まで送ってくれないか?そうすれば天空園まですぐに行ける」
アポ 「ほんとに見せる気か?」
マゴグ「こう言うのを、アフターケアってんだな、ゴグ」
ゴグ 「その通り」
一転して天空の花園・天空園である。足元を霞のように、花と草が覆い尽くしている。風に乗って花弁が舞い散る。歩く度に花弁ははらはらと空に散って、風と共に踊る。
ゴグ 「ほら、あそこ」
ゴグの示す方向に、黄金の巨大なカップが横たわっているのが見えた。その前に、女性のような男性のような、どちらともつかない姿の人間が、長いローブをまとってたたずんでいる。
何だろうと、マイユとアサギが目をこらすと、カップの一部分がドアのように開いて、中からやはり中性的な若い子が出てくる。
プラクナ「おめでとう、良かったですね」
訪問者「ありがとう、プラクナ。今年はどれれぐらいの人が来たの?」
プラ 「10人ぐらい…でしょうか。でも、これからきっと増えますよ。結婚式の予定も多いし」
訪問者「そう、きっとそうね。今年の幸福のカップも、きっとすぐにいっぱいになるわね」
訪問者は大事そうに胸の奥から、丸い花の蕾を取り出した。丸い形の蕾の花弁を、一枚一枚開いて行くと、その内側に淡く輝く丸い種子が入っていた。
宝物を扱うように、プラクナはそれをそっと受け取る。
プラ 「では、確かにお預かりしました」
マイユ「あれは…なーに?」
マゴグ「空の眷族の種子だよ」
ゴグ 「こいつが下界に巻いた種子は、みんなこうやって一つずつ一年がかりで集められたものなんだ」
マゴグ「うーるさいな…んで、まとめられた種子は、最上層で月日星の輝きを浴びて熟させる。でないと生まれられないからな」
ゴグ 「下界に落ちた種子は、熟さずにそのままの状態でいるか、人間の身体の中で、殻をまとって生まれるか、どちらかなんだ。誰よりも生命力が強い証だね」
マイユ「じゃあ、あれが…私達の…最初の姿なのね?」
風に乗って空を降りて行く4人。
ゴグ 「空の眷族の結婚は、一緒に暮らすって事ではないんだ」
マゴグ「種子を作るには、結婚しなければならない、これは絶対。人間は一緒に暮らさなくても、結婚しなくても可能だけどな」
ゴグ 「空の眷族は、心で出来ている。だから結婚すれば…心が一つになれば、身体も一つになるんだ」
マゴグ「そうなって、空の眷族としては一人前と認められる訳なんだけど、あいにく俺たちはあいてを見つける時間がとれなくって、相変わらず半人前だぜ」
にぎやかな声が聞こえてくる。
祝福の声、励ましの声、喜びの声。
彼等はいつの間にか、結婚式の行われている神殿の中に居た。
参列している人々はみな空の眷族である。
主役である人々は、円陣の中央に寄り添って立っている。互いの脇に一人づつ同性の付き添いがいて、たまに話し合ったりしているが、花嫁はどことなく緊張しているようであった。
白い花のようなふわふわとしたドレスをまとって、冠をかぶっている。
花婿はごく普通の空の眷族の姿だが、花嫁と同じ長いマントを垂らしている。
どこからともなく、澄んだ鈴の音が響いてきた。と、周囲の人集りは彼等の回りから退いてゆき、彼等は円の中に残された。
「さぁ、彼等を祝福しよう」
「陽の下で」
「星の下で」
「月の下で」
「空の真ん中で」
「心は寄り添った」
「わたしはあなたと」
「あなたはわたしと」
「離れがたき、一つの心」
花婿は緊張している花嫁を抱きしめると、二人はゆっくりと口付けを交わした。
とたんに、脱皮する時のように、彼等の姿は溶け合い、一つになった。
どちらにも似ている、けれど中性的な美しい空の眷族が、微笑んでそこに立っていた。
マイユ「…ほんとだ…」
アサギ「だけど…」
まだ不安そうなアサギに、こともなげにゴグとマゴグは言う。
ゴグ 「互いに心が通い合っていると言う事が、結婚の絶対条件。2人だけではない。3人での結婚でも可能だ」
マゴグ「キュリクスに直接聞いてみな。きっとマイユとアサギ、どっちも同じぐらい好きだって言うぜ。それは本当なんだろうしな。一緒になっちまえよ、虹の滝番のイリスみたいにさ。あいつときたら、4人までは俺の許容範囲ってのが口癖だったけど、ほ
んとにやるとは思わなかったぜ」
アサギ「4…人…」
思わず指を折るアサギ。
ゴグ 「人間界の決まりごとは、人間のためにあった。君達はそれを十分に守ってきた…けれど、今はもうその必要はない。自分の知っている決まりごとだけが、正しい訳ではないんだから」
マイユ「そうかぁ…」
アサギ「それじゃあ、つまり…」
と、アサギはゴグとマゴグを交互に見て言う。
アサギ「ゴグとマゴグが、同じ女の子を好きになったりしたら、やっぱり3人で一人になるのね」
マゴグ「何で俺たちが!」
ゴグ 「何で私達が!」
マイユ「だって…二人とも、すごく仲いいじゃない」
ねぇ、とマイユはアサギを振り向く。
アサギ「いつも一緒だし」
ゴグ 「冗談じゃないっ、こんな奴と女性の趣味が一緒であって、たまるものかっ」
マゴグ「何だと、てめーっ、それは俺のセリフだぞ」