カミング・アフター前半/脚本
ゴグ&マゴグ
門番の主任代理 グノーメ
天界生まれの彼 キュリクス
人界生まれの彼女A マイユ
B アサギ
虹の滝番 イリス
イギリスにあるような、深き森のような場所の薮の中に、ゴグとマゴグが隠れている。
一目で空の眷族だと判る女の子が、その前を遠ざかって行く。
黙ったまま、マゴグに合図を送るゴグ。うなづいたゴグは、そっと移動したと思うと、不意に薮から飛び出した。
「きゃああああ!」
たまぎる悲鳴。
彼等は一体何をしているのか思わせるが、すぐにそれは判る。
彼女の前と後ろに立ったゴグとマゴグは、勇ましい格好をしている。(軽装だが鎧とマント、武器は弓とボウガンなどの、射撃用)マゴグ「マイユちゃん、だーめだよっ、こん
なとこまで入ってきちゃ」
ゴグ 「私達にまかせなさいって、言っただ
ろう」
マイユ「でも、でもでも…」
しょんぼりするマイユ。
マイユ「アサギが心配なんだもの。天界は、天国みたいに平和で、静かで、いい
とこだって思ってたのに、とんでもない場所がいっぱいあるんだもん」
マゴグ「まー、そりゃーね、いいとこもあれば、悪いとこもある」
ゴグ 「人間と違って、私達は自然に歩調を
合わせて存在している者だから・・
バランスを大事にする一族なのさ」
そう言った矢先、どこからともなく、得体の知れない物の、おたけびが響いてくる。
マイユ「あ、あれ・・も?」
青い顔をしながら、ゴグととマゴグはうなづく。
二人「う、うん・・そう」
再び大きな吠え声。3人とも震え上がる。ゴグ 「ま、さか…」
マイユ「危ないんじゃない?」
がさっと音がして、森の中から虎のような獣が飛び出してくる。
マゴグ「ちぃー、出たな妖怪!」
ゴグ 「バカ者っ、冗談言ってる暇があった
ら、逃げろマゴグ!」
弓を構えようとするマゴグの前に、虎もどきが飛び出す。マゴグが絶体絶命の顔で焦った。
事の起こりは、突然の2人の召還から始まる。
魔法陣の中に、折り重なった二人が空中から降ってきた。そこはすでに天界の、明るい庭の真ん中である。
魔法陣の前には主任代理のグノーメが、本を手にして、術を行った後である。
ゴグ 「いーてててっ、マゴグ、早くどいて
くれっ」
マゴグ「お前こそ、この足どけろっ」
二人はもつれている。
グノー「何をしてる、お前等・・」
あきれている主任代理(ニキティキは休職中)のグノーメにゴグとマゴグは抗議する。マゴグ「主任代理…いきなり召還術なんて、
何かあったんですかー」
ゴグ 「乱暴な帰省のさせ方は、やめて下さ
い、グノーメ。呼んで下されば、す
ぐに白き峰を越えてきますから…」マゴグ「だいたい下界とこっちでは、時間の
流れが違うじゃありませんかー。そ
んなに焦んなくても」
グノー「ほほお、お前たちからそれを聞かさ
れるとは思わなかったぞ」
突っ込まれて、ううっとくちごもるマゴグ
グノー「準備だ何だで、ぐすぐずしていて、
落とし子たちは、すっかり育ってしまったではないか。もし、彼女たちが純潔を失いでもしたら、天界へは
戻れなくなるんだぞ…だから、魔法陣で呼んだんだ!これなら、時間のずれを強制調節できるからな。お前
たちに、こっちでのんびりでもされたら、下界に残っている子が、成人してしまうわ!」
怒られて首をすくめる二人。
興奮した主任は、あわてて声を整える。
グノー「ん、あー、まぁそれで、召還したのには理由がある。お前たちが捜し出してここに戻した子供たちの一人が…アフターケアを申し出たのだ」
マゴグ&ゴグ「はぁ」
主任 「それがだな、やはり帰界子女の友達が、奈落の森へ降りていったと言うんだ」
ゴグ 「奈落の森、だって?」
マゴグ「何でまた」
グノー「ともかく、その子を無事に連れ戻してくれ。奈落の森は、虚空から染み
出してきた諸々が棲む森だ。運が悪ければ命だって危ない」
マゴグ「ちょ、ちょっと待って下さいよ、グノーメ!俺たちはただの門番です、
そーゆー仕事は守護番の役目・・」
グノー「アフターケアは、君達の責任で行ってもらう事になっている」
ゴグ 「それはそうですけど、何故その子は奈落の森に降りていったんです?理由は?」
グノーメ、少し困った顔をして、告げる。
主任 「うーん・・たぶん、理由は失恋のようなのだ」
ゴグ 「失恋?」
マゴグ「あっ、俺聞いた事があるぜ、たしか奈落の森の奥深く、さまよいの果て悲しみの淵に咲く忘却の花が、失恋の痛手を消してくれるって」
ゴグ 「お、おまー…」
喜気としてしゃべるマゴグに、ゴグは青ざめる。
と、主任がにこにこして。
グノー「そうか、そうか、知っているか。
だったら話は早い。頼んだぞ、お前
たち」
マゴグ「は?」
茫然となるマゴグと、がっくり肩を落とすゴグ。
ゴグ 「だーかーら、お前は・・」
森の大木に、何とか昇った3人。下には虎のような姿の、巨大な獣が一匹うろうろしている。
ゴグ 「まいったな、森の中じゃ、枝が邪魔
で、飛んで逃げることもできない」マイユ「えーん、恐いよお」
マゴグ「ああ、心配しなくっていいから」
怯えるマイユを背に、マゴグは弓を降ろして構えた。
マゴグ「あったるっかなー」
と、射撃。
ぱす、と軽い音を立てて矢は命中した。
マゴグ「おお、ラッキ」
とたんにうろうろしていた獣は、その場にぺたんと腰を降ろして、うずくまった。身体を縮めて丸くなる。
ゴグ 「うまく当てたな」
感心するゴグ。
マゴグ 「俺の実力だってー」
偉そうにするマゴグ。
マイユ「…麻酔?」
マゴグ「そんなようなもんかな。矢尻に夢の
実がしこんであるんだ」
そう言いながら降りてくるゴグマゴグ。マイユに手を貸してやる。
ゴグ 「しばらくは、飽食しきった夢を見て
いるだろう」
マイユ「こんなに危険なのが、森に住んでい
ても構わないのね。ちょっと不思議
…退治しないの?」
マゴグ「こんな所まで入ってこなきゃ、こい
つらも追いかけてきたりしないぜ」マイユ「だって、食べられちゃったら、死んじゃうのに」
マゴグ「食べられるって…こんな風に?」
と、マゴグはマイユの前に腕を出す。二の腕が一口ぐらいの大きさで、かじられてなくなっているが、血は出ていない。
マイユ「い…あーあ…あ…」
驚愕でひきつるマイユ。
ゴグ 「マゴグ、おどかしてどうするんだ」マゴグ「へへへ」
いたずらっぽく笑うマゴグ。
ゴグ 「ああ、平気平気、こいつはこれぐらいかじられたって」
マイユ「だっ、だっ、だってだって」
青ざめたマイユは、マゴグの腕を取って目を見開いている。
マイユ「こんなにすごい、怪我したのにっ」マゴグ「心配?」
マイユ「心配よ、もちろん!」
ゴグ 「では、ほんとに大丈夫だ」
マイユ「え…?」
どういう意味だろうとマイユが思った途端に、マゴグの腕の怪我が、みるみるうちに修復されてゆく。
マイユ「えっ、ええっ?」
マゴグ「ありがと、マイユ。もう平気だ」
マゴグは腕を曲げ伸ばしして、腕が壮健な事を示す。
マゴグ「マイユが俺を心配してくれた気持ちが、怪我を癒したんだ」
マイユ 「奇跡…?」
ゴグ 「いや奇跡ではない。空の眷族なら誰にでも出来る事なのだから」
マゴグ「脱皮した時のことを覚えてるかい」
マイユはうなづく。
マゴグ「空の眷族の身体は、下界の人間とは違うもので出来てたろう?。そうだな、心が実態化したのが、空の眷族だって言えば、一番近い感じかな。そして傷付いた心を癒すには、誰かの心が必要なんだ」
ゴグ 「天界に棲み付くこれらは、私達のような眷族も追いかけるが、たいがいは空間の歪みから生まれる、物怪みたいなものを口にする。もし、一つもいなくなったりしたら、困るのは
私達のほうだよ」
マゴグ「それこそ世界が終わっちまわぁ」
かかか、とマゴグは笑って見せた。しかし彼等はその間にも迫る、背後の諸々の形に気が付かないのだった…。
森の中を必死で逃げるゴグ&マゴグとマイユ。後ろから得体の知れない蔦の蔓が追いかけてくる。
ゴグ 「前をふさぐなっ!」
マゴグ「全速力、出してるって!」
マイユ「やたやだ、もーっ」
マゴグ「ちっ」
不意に振り向いたマゴグ、ボウガンを打つが、突き刺さっても効果がない。
マゴグ「ちゃー、こいつにゃ効かねぇよ」
ゴグ 「頑張れ、もうすぐ地盤の境だ。そこ
から先には追いかけてこれまい!」マイユ「息…息が…続かないよぉ…」
ぜーはーと息を切らしながら、マイユが走る。
ゴグ 「しっかり!」
マイユの手をしっかと握って走るゴグ。
マゴグ「俺たちゃ、捜索向きで、戦闘はタイプじゃねぇんだっ」
矢が効かないと知ったマゴグは、その辺りの枝で、つたを牽制しながら走る。
ダッシュしていた3人、足元が途切れたのに気付かない。
一瞬、間があいてそのまま落下する。
「だーぁぁっ」「ひーっ」「きゃーっ」
マイユ「お…落ちるーっ」
マゴグ「マイユ、飛ぶんだ!」
ゴグ 「しっかりしろ!」
が、途中でやっと体制を立て直し、ふらふらしながらも飛んで、次の地盤へと降りて行くのだった。
背後で蔦のかずらが、ひろひろと先を伸ばしているのが見える。
世界は階層式になっていて、(アフタヌーンティーのケーキ皿みたいな感じで、受け皿の形や位置は、もっとランダム。地盤そのものの形は、大豆の種を半分に割ったような形で、植物や花や霧、雲などがそれを取り囲んでいる。崖や岩がむき出しの物はない)彼等はその一つ一つを尋ねながら、奈落へと降りて行くところである。
世界の周囲は白き峰に取り囲まれ、それを越えないと人間界へは降りることができないのだ。
彼等が降りていったのは、本当に小さな地盤だった。周囲を一周するのに、10分とかからないだろう。
だがその地盤からは、目の覚めるような七色の虹が滝となって流れだし、その先端を虚空へと溶かしている。
たった一軒、その地盤に建てられている神殿も小さくて、可愛らしい虹の印がついている。
イリス「あらまぁ、お客さんだ」
神殿の前に、中性的な容姿の背の高い美人が立っていた。腰に鍵を下げている。
イリス「ずいぶんぼろぼろで…何があったん
ですか?」
よろよろとたどり着いた3人に近づいてきたイリスは、やっと彼等が誰か知る。
イリス「誰かと思えば…門番のゴグとマゴグではありませんか。こんな深みまでどうしたんです」
マゴグ「やぁやぁ、虹の滝番、イリス殿」
ゴグ 「お、ひさしぶりです」
イリス「噂はここまで届いていますよ…ドジこいて、門番解任されたってなー」
と、人が変わったように男っぽく大笑いする。
マゴグ「あっ、ひっでー!同情してくれたっ
ていーじゃないかよぉ」
ゴグ 「そんなに笑わなくても…」しくしくイリス「そ、それもそう…だ。まあ、せっかくここまで来たんだから、うちの名
物、虹のお茶でも飲んでけよ」
やっと笑いを収めてイリスは言うが、まだ笑いの涙が浮かんだままである。
ゴグ 「え、それは嬉しいお誘いですが…実は私達は今、急ぎの用事で奈落まで行かなくてはならないんです」
マゴグ「この子の友達なんだけど」
二人の後ろに隠れるようにしていたマイユが、おずおずと顔を出す。
イリス「奈落…って、あんなとこに、君の友
達はなんで?」
マイユ「あの…私のせいでアサギ…傷ついちゃったんです!」
マゴグ「あれ、失恋したからじゃなかったっけ?」
ゴグ 「話が違うような気が…」
ぶんぶんとマイユは頭を振る。
マイユ「違う、違うの!アサギは私のためにって、身を引いたけど、でも、そんなの私ちっとも嬉しくないの。だっ
て私、だって…」
と、話をしようとして興奮してきたマイユは、涙が先にあふれてくる。
イリスはそっとマイユを慰めるように、彼女を抱え込むと、優しい笑顔で言う。
イリス「さぁさぁ、お話するならお茶が必要ですね。中へどうぞ、おいしい虹のお茶を入れましょうね」
と、またころりと印象の変わったイリスが彼等を神殿に誘うのだった。
神殿の中、こじんまりとした中庭のサンテラス。(公園とかにある東屋・洋風)周囲には鳥が鳴く。
4人がベンチに腰を降ろしてお茶をしている。
マイユ「アサギは…私の親友なの。こっちに帰ってきてから、ずっと一緒だったんだけど、…天蓋の森で…」
回想
天蓋の森は、巨大な一本の樹木が両腕を高く広げて、まるで一つの森のようになっている場所である。その姿がドーム(天蓋)を思わせるので、そう呼ばれている。
巨木の下には潅木程度しか生えない。
アサギ「マイユ、障害物に気を付けてね」
マイユ「大丈夫よぉ、ここには背の低い木しか生えないもん。練習にはぴったしねっ」
おぼつかない足取り…で、飛んでいるマイユ。マイユの服の裾を持って、その後をフォローするアサギ(自転車の練習のように)
マイユ「でも、何にもない空と違って、やっぱり邪魔な物があると、バランスがとりにくくて…」
と言った矢先に、バランスを崩して潅木に突っ込んでゆく。
マイユ「あ、あれあれあれっ?」
アサギ「し、しっかりーっ」
どっさん・ぼっこん・ばっきん
ひどい音がして、二人は潅木に落下したのだが、二人は痛みよりも驚きの方が先に立ってしまっていた。
あちこちすりむいた傷を残して、マイユとアサギは茫然と前方を見つめている。
そこには泉があり、水浴びが出来るように整えられている場所である。泉では一人の青年が水浴び中であった。
腰から下は(残念ながら)腰布で覆われているが、上半身の逞しい身体は完璧にこちらに見えている。
彼は激しい音を立てて落ちてきた少女二人に気がつくと、こちらを向いて笑った。
キュリクス「怪我、しなかった?」
くらくらの美青年である。二人とも顔が赤くなるのは当然と言った風情の、爽やかにして情熱的な空の眷族だった。
(それから私達、仲良くなって…良く一緒に出かけたの。鈴の音の祭礼や、狭間の国への夢汲みにも出かけたわ。全部キュリクスが、何も知らない私達に一つ一つ教えてくれたの。私にはとっても優しかったし、アサギにも同じように…)
トリプルデートをしている3人。
周囲の人々の暖かな眼差し。
マイユ「私、初めてゴグとマゴグに会った時
こんな綺麗な人、他にいないと思ったのに…天界に来たら、そのぐらいのレベルの美形、ごろごろしてるん
だもん。でも…キュリクスは、誰よりも綺麗だと、思うわ」
恋をしている少女の顔は、きらきらしているけれど、比較されたゴグとマゴグは、あんまり嬉しくなさそうである。
マイユ「私もアサギも、きっと同じぐらいキュリクスの事を好きなのよ。なのにアサギは…キュリクスをあきらめるって書き置きをして、いなくなっちゃったの!」
うつむくマイユ。
アサギ 「キュリクスには、アサギが居なくなった事はまだ言ってないわ。だってキュリクスがこの事を知ったら、絶対に彼が一人で捜しに行くって言うもの」
マゴグ「つー訳で、その子は奈落の奥の忘却の花を、失恋の特効薬として摘みに行ったんだ」
ゴグ 「あの辺は太古のままの獣たちが残っているし、足を踏み外して奈落の外へでも落ちたら、混沌に還ってしまう。それに、そこまでたどり着いている確証も…」
マイユ「…アサギぃぃ…」
泣きそうになるマイユ。
あわててゴグの横っ腹を、肘で攻撃するマゴグ。
マゴグ「あー、いいからいいから、心配しなくてもいいって。運が悪けりゃって言うことなんだから」
ゴグ「うー…」
マゴグに攻撃された場所を、ゴグは押さえている。
アサギ 「私、キュリクスの事が好きよ。でも、アサギの事も大切なの。絶対になくしたくないの」
イリス「マイユ…アサギ…下界から帰国した女の子たちの、エキゾティックな名前の響き…そして下界ですら生き延びた生命力の強さ…何とも魅力的だね。私だって結婚していなければ、プロポーズしれたかも」
マイユ「えっ?」
マイユは、ぽっと顔を赤らめた。
イリス「私が一人で虹の滝番の勤めを果たせるのは、結婚しているからです。そうでもなければ、こんな所では、寂しくって暮らせませんよ」
ゴグ 「イリス殿…もしよろしかったら、マイユをここで預かって戴けませんか?」
マイユ「え…」
ゴグ 「友達を心配しているのは知っていますが、ここから先、危険度が増しますから…」
マイユ「そんな…」
あわてて周囲を見回すマイユ。
マゴグ「そーかー、マイユは飛び入りだったな。上に戻してやりたいとこだが、時間がないし、いい手かもな」
イリス「私は別段、構いませんが」
話が勝手に進んで行くのを見て、マイユはあわてる。
マイユ「そんなのって、ないー」
ぽつんと一人で丘の上に座っている少女がいる。周囲はただっぴろいだけの野原で、ところどころに遺跡のような、石柱がたたずんでいるのが見える。
アサギは膝を抱えて、草の上に座って遠くをぼんやりと見ているのだった。
アサギ「私の間違いだった……草の上に座れば、それがわかる…私の間違いだった…。誰の詩だったっけ…」
遠くが雲でかすんでいる。
ぱたりと草の上にねころんで、アサギはつぶやく。
アサギ「…なんだか不安になってきちゃったなぁ…。でも、私がここにいるのは間違いじゃないよね。私、ここにいていいんだ」
アサギは手を空に伸ばして、指で文字を描く。
アサギ「居心地は一番いいもの。今までのどこよりも、一番」
回想
母 「ねぇ、だから出てちょうだい。久しぶりのTV出演依頼なんだし、せっかく紹介していただいたし、ね」
下界に居た頃の記憶が甦ってくる。いかにもO型っぽい容姿の母親が、登校間際のアサギに玄関で話しかけている。
うんざりしながら、アサギが返す。
アサギ「…あのね、母さん、こう言うの知ってる?3つで天才10で秀才、二十歳過ぎればただの人って。私、もう
15になるの。ほぼただの人です」
母 「そーんな事ないわよー。あなた、昔は天才児だったんだから。テレビにもいっぱい出たのよー」
アサギ「その仕事だって、あのころのCM特集のゲストだって言うんでしょ。何で私が…」
母 「ね、お願いだから出て。もう出るって返事しちゃったんだもの」
アサギ「もう、母さん、勝手なんだから!」
司会 「…と、言う訳で、なつかしいねぇ。
このCMは覚えているかな」
司会とアシスタントに囲まれて、アサギの他十数人が、バックを囲んでいる。
アサギ「…単なる数合わせなら、そう言えばいいのに…」
アサギがぶつぶつ言いながら、居心地悪そうにしていると、不意にマイクが目の前に突きつけられた。
司会 「どお?アサギちゃん、覚えてる?」
アサギ「は、はぁ…でも私、赤ちゃんだったから…」
司会 「おや、天才児は記憶力いいはずだけど、覚えてないの?」
アサギ「…ません」
司会 「アサギちゃんは、2才にして小学生並みの知能指数を誇る天才少女で、こんなにコマーシャルにも出ていたんだよ」
と、司会の言葉と同時に、ビデオが流されていく。塾や教育おもちゃのCMフィルムが流れる。
へええ、と言う声が会場に上がって、アサギに視線が集中した。
ますますアサギは身体を堅くする。視線がまとわり付いてくるようで、気持ちが悪い。
アサギ(私、そんなんじゃないもん。普通じゃないって言われて、嬉しいような人じゃないし、こんなに…浮かないように、努力してるじゃない!)
中学校の廊下。男女が集まって、何かもめている様子。アサギが数人の中にいる。
男子 「何だよ、俺の成績が悪いからって、訳のわかんねぇ事言って、ごまかすんじゃねーよ」
男子 「テレビに出たからって、気が大きくなってんじゃない?」
アサギ「誰がよ!」
女子 「やめなよー、アサギに口で勝てる訳ないのに」
男子 「るっせぇなぁ、だーから、頭いい女は嫌なんだ。結婚できねぇぞ」
女子 「あんたみたいなのと付き合うくらいなら、一生独身のほうがいいわ」
アサギは、ただ不愉快そうにしている。ごたごたがもう、耐え切れないほど嫌な様子である。
アサギ「やめてよ、もうやめて!私が可愛くない事ぐらい、よーく知ってるわ。でも、バカで可愛いくて、人に頼って生きるより、私は一人で何でも出来る大人になるの!」
女子 「そうよ、経済的に自立した女は、男なんて必要ないんですからねー。10年後に困るのは、あんたたちよ」
アサギ「あ、あの…そういう意味では…」
止めようとするアサギの言葉を聞いていない女子。もめごとは、まだ続いている。
アサギ(私って、何なの?普通じゃないの?でも違うよ、ただ私は…ずっと違和感がつきまとうだけの…)
草の上で、はっと目を覚ますアサギ。
アサギ「あ…眠ってたんだ。やな夢見ちゃった…」
はあ、と溜め息をついて、アサギは身体を起こす。
アサギ「うん、もう今は私、いるべきとこにいるんだもん。自分で考えて動いたっていいはずだよね…」
そう言いながらも、何か不安げなアサギ。
虹の基盤の下層。足元から(滝)虹が落下して行く。幅は30メートル程で、堂々としたものだ。
イリスは滝の脇にある、柱(コリント式)と屋根だけの小さな場所に入ると、鍵を出して大きな丸いハンドルのようなものに差し込んだ。
その横にはマイユが立っている。
イリス「この滝は、下界にかかる虹の源なんです。世界中の空に一日の間にかかる虹の量を調節するのが私の役目」
そう言いながらハンドルを回す。虹の滝の幅がだんだん小さくなって、流れが緩やかになってゆく。
イリス「さぁ、いいですよ。飛び込んでください。この流れに乗れば、奈落まではすぐです」
ゴグ 「ありがとうございます、イリス」
マゴグ「サンキュー!」
向かい側の岸に、ゴグとマゴグが立っている。ひょいと地面を蹴って二人とも飛び込んで行く。
イリス「さぁ、マイユ。家に帰ってお茶でも…?」
振り向くと、マイユがいない。
マイユ「ごめんなさい!でもじっとしてられ
ないの!」
すでに滝の際に居たマイユは、そう言うなりゴグマゴグの後を追って飛び込む。
イリス「マイユ!……って…ダメか…」
手を伸ばしたイリスは、すぐにあきらめて苦笑いを浮かべた。
イリス「どんな障害も、恋をしてる女の子ににとっては、しょせん効率のいい燃料にすぎないですねぇ…ほんと…燃える燃える」